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2006年5月19日 (金)

急速な自由化がテロ撲滅への道か?:米国大統領2006年一般教書演説を読んで

私の通っているECCの時事英語クラスで、昨日、今年の1月31日に行われたブッシュ米大統領の一般教書演説の一部を抜粋したものが、教材として取り上げられた。その教材とは、『CNN ENGLISH EXPRESS』(朝日出版社、2006年4月号)pp. 83-89に掲載されていたものである。

以前から気になっていたものの、一般教書演説がなされた当時にはそれに触れる余裕がなかったのだが、昨日ちょうど教材として触れる機会に恵まれたので、大変遅ればせながら、これを機にホワイトハウスのウェッブサイトにアクセスしてその全文を入手し、ECCに通う電車の中で通読した。

読んでみて私の目に止まったのは、中東に自由民主主義を拡大していくという理想を引き続き強力に推し進めることで、米国は世界のリーダーでありつづけるという強い決意を示した部分である。その部分を読んだとき、私は「ちょっと待てよ…」という思いを抱くことを禁じえなかった。

とはいえ、私は反米的な立場に立っているわけではない。わが国の第二次大戦後の発展は日米同盟なくしてはありえなかっただろうし、これからも日米関係は重要なものであり続けるだろう。戦後において、米国が寛大にも市場を日本製品に対して開いていなければ、今の日本の繁栄はありえなかった。その意味で、私は日本がこれからも米国と良好な関係を保っていくべきであると思っている。その意味で、ブッシュ大統領がこの一般教書演説で孤立主義への回帰を戒めたことは、評価されてよいだろうと思う。

だが、その上で、やはり「ブッシュさん、ちょっと待って下さいよ…」という思いを禁じえなかった。というのも、この一般教書演説においても相変わらず、「圧政による自由の欠如こそがテロの温床であり、自由民主主義の強力な拡大こそがテロを撲滅する唯一の道である」という立場を鮮明にしていたからである。

本欄の昨年7月24日の記事(「ロンドンのテロをめぐって:宗教テロは“自由からの逃走”か?」)でも触れたが、昨年7月20日のInternational Herald Tribune紙に掲載された、コラムニストのRoger Cohen氏の論説によると、昨今の宗教テロは必ずしも圧政下に置かれるがゆえの絶望の産物ではない。昨年7月にロンドンで自爆テロを起こしたアラブ系青年ハシブ・フサインも、2001年9月11日に世界貿易センターの北側のビルにAmerican Airline Flight 11を突っ込ませたモハメド・アタも、決して自由と豊かさを知らない青年ではなかった。むしろ、彼らはイギリスのリーズや、ドイツのハンブルグで、欧米的な自由を享受して過ごしていたのである。

本欄の昨年7月26日に「宗教テロとグローバリゼーションをめぐって(1)」「同(2)」を掲載したが、そこでも論じておいたように、むしろ途上国に対してあまりにも拙速に国際統合・自由化を迫ったことが、かえって昨今の宗教テロを呼び起こしている可能性が高いと思われるのである。

だとするならば、たしかにテロリズムという手段が到底許されるものではないとはいえ、テロリストたちを敵呼ばわりし、彼らの原理主義的な主張の背後に横たわる反米的な姿勢を徒らに刺激するだけでは、かえって米国にとっても逆効果となるのではなかろうか? むしろ、本稿の昨年8月8日の記事でも論じておいたように、先進国としては自由市場の論理に首尾一貫して従いつつ、途上国にはむしろ開発主義を採用する余地を寛大に認め、雁行的な国際的経済発展を可能にすることこそが、テロリズムを沈静化させ、米国の国益に適う道だと思うのである。

しかもその「経済発展」は、21世紀の今日、もはや石油をはじめとした化石燃料に依存しつづけるものではありえないだろう。むしろ、これからの米国が進むべき道は、そしてその米国と今後も同盟関係を保っていくべきわが国が歩んでいくべき道は、限りある化石燃料の奪い合いに自らを巻き込ませる道ではなく、むしろ、太陽光や風力等の自然エネルギーの開発に邁進し、経済発展を渇望する途上国にもその技術を気前よく供与することで地球温暖化=気候変動の進行を食い止め、持続可能な経済発展を地球規模で達成していける道を、日米そしてEUが手を取り合って、切り開いていくことでなければならないだろう。

この意味で、京都議定書から離脱している米国ブッシュ大統領その人自身が、今年の一般教書演説で「アメリカは石油中毒である」と認め、一方で石炭や原子力にも言及しつつも、他方ではクリーンな自然エネルギー活用のための技術開発にもハッキリと言及していたことは、大いに評価されてしかるべきことだと思われるのである。

米国が自由民主主義の普遍性を信じるあまりにその拡大に盲信することなく、本来は原理主義的ではないはずのアラブ・イスラム的な価値も認めつつ、共存共栄の道を世界が歩んでいく上で必要な役割を発揮していくことを、心から願うものである。

山中 優

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