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2006年5月25日 (木)

環境税を考える(3)

○なぜ地球温暖化は新たな環境問題なのか?:政府規制の限界
・従来の環境汚染:産業公害
産業公害による環境汚染は、たしかにかつての日本において深刻な被害をもたらした。「水俣病」「イタイイタイ病」「四日市ゼンソク」といった言葉は、学生諸君も一度は耳にしたことがあるだろう。これらの公害は、有害化学物質による水や大気の汚染によって引き起こされた環境汚染である(石弘光『環境税とは何か』2ページ)。

この産業公害はたしかに現在でも完全には解消されていないから、依然として重要な問題であり続けているが、後述するように、地球温暖化とは違って、環境税という新たな手法を用いなくとも、政府による直接規制で対応できるものなのである。このことを、筆者の幼少時代に馴染み深かった大気汚染の1つ「光化学スモッグ」を例にとって、説明してみよう。

・産業公害の一例:「光化学スモッグ」とその対策としての政府規制
筆者は大阪府堺市で生まれ育ち、19歳のときまで在住していたが、私が小学生のとき、学校でしばしば「光化学スモッグ」注意報・警報が出ていたことを今でもよく覚えている。これが発生すると、目がチカチカしたり、のどが痛んだり、頭痛を引き起こしたりして人体に悪影響を及ぼすのである。その注意報や警報が出たときには外ではあまり遊ばないように、外に出るときには必ず帽子をかぶるようにしなければならなかった。幸いなことに、私自身は光化学スモッグによる人体への悪影響を感じたことはなかったが、光化学スモッグの注意報や警報の発令を示す旗が校内に掲げられているのを見るたびに、子供心に何かこう、うす気味悪く感じたものである。

私は昭和44年(1969)2月生まれだから、私が小学生だったのは昭和50年4月~56年3月(1975.4~1981.3)である。試みに環境省のホームページで光化学スモッグ関連の法令・告示・通達を調べてみたら、大気汚染防止の基本法である「大気汚染防止法」が昭和43年6月10日に公布されていたのに加えて、「光化学スモツグの発生防止等に関する暫定措置について」と題された通達が、当時の環境庁大気保全局長から各都道府県知事あてに、昭和47年6月1日に公布されているから、私が小学生の頃には、大気汚染防止法を踏まえたこの種の通達を受けて、防止対策のためのさまざまな規制措置がすでに採られていたことだろうと思う。

この光化学スモッグはもう過去のことかと思っていたら、同じく環境省のホームページに、なんと、つい最近の2006/05/12の日付で、「揮発性有機化合物について:光化学スモッグのないくらし」と題されたパンフレットが発行されていた。それによると、過去、昭和40年代にも光化学スモッグが問題となり、国はその原因物質たる窒素酸化物や硫黄酸化物の排出規制を行なってきたが、近年「光化学オキシダントの注意報・警報発令日」が再び増加傾向にあるため、今年の4月1日から、揮発性有機化合物(VOC)の排出規制が新たに開始されたのだというのである。

揮発性有機化合物(VOC)とは、ガソリンや、塗料・接着剤・インク等に溶剤として含まれるもので、蒸発しやすく(蒸発しやすい性質のことを“揮発性”という)、大気中で気体となる有機化合物の総称で、これが自動車や工場からの排気ガスに含まれる窒素化合物と、太陽からの強い紫外線を受けて化学反応を起こし、「光化学オキシダント」という物質をつくり出す。この光化学オキシダントの濃度が高くなって白いもやがかかったようになる現象が「光化学スモッグ」に他ならない。

つまり、国はこれまで、光化学スモッグ対策として、窒素酸化物や硫黄酸化物の排出規制を行なってきたが、今回新たに、この窒素酸化物と化学反応を起こすことで光化学オキシダントを生み出す原因物質たるVOCを、新たな排出規制の対象に加えたというわけである。

環境省のパンフレットによると、このVOCは工場や工事現場などから大気中へ年間約150万トン、それ以外に自動車などから数十万トンも排出されているというから、これもまた、うす気味悪い話である。

このように、光化学スモッグひとつを取り出してみても、大気汚染という産業公害は現在でも大きな問題となっており、そのための対策としての政府規制が依然として重要であり続けていることは確かである。

・地球温暖化の特徴:産業公害との異質性
しかしながら、地球温暖化は、以上のような産業公害とは根本的に性格を異にした、まったく新たな環境問題なのである。この根本的な違いを、石氏は以下の三点にまとめている:

(1)地球温暖化を引き起こす原因物質は、直ちに人体に影響を与えるものではない。地球環境全体にじわじわ悪影響を及ぼすもので、直接の被害者は子や孫の将来世代である。

(2)主たる要因であるCO2排出は、人間のあらゆる活動に伴って発生するものであり、特定の産業活動から生じる物質の排出によるものではない。

(3)時間を経て空間的に拡大するので、現世代の間に危機意識は生まれにくい。かくして人々は冷淡で、その対策のため国民的支持は得にくい状況になる。

つまり、従来型の産業公害は、現在でも重要な問題であるとはいえ、地域や発生源が特定されているため、政府による直接規制で十分対応が可能である。ところが、地球温暖化は、化石燃料をエネルギー源とする限り、人間のあらゆる活動に伴って引き起こされるため、規制的手段だけではとうてい対応不可能なのである。
(石弘光『環境税とは何か』18-19ページ)

そもそも政府による直接規制が有効に働くためには、実際に取り締まりを行なわなければならない。しかし、石氏も指摘しているように、自転車の違法駐輪や自動車の違法駐車、車のスピード違反、それに未成年による飲酒や喫煙などのように、ほとんど無視されている規制も数多いのである(『環境税とは何か』42ページ)。このことからも分かるように、規制が実を挙げるための取り締まりは、取り締まりの対象たる違法行為があまりにも広範にわたって行なわれている場合、一般的に言っても、現実にはなかなか難しい側面がある。

ましてや、地球温暖化の原因たるCO2の排出は、化石燃料に依存している限り、人間のあらゆる活動に伴うものであるから、政府による直接規制では対応しきれないのである。

こうして、地球温暖化を食い止めるための新たな環境対策として、環境税が浮上してくることになるのである。それでは一体、環境税は、どのようなメカニズムによって、地球温暖化防止の実を挙げることが期待されるのであろうか? この点については、次回に述べることにしよう。

なお、環境税が浮上する以前に従来から行なわれてきた環境対策としては、今回取り上げた政府規制の他に、民間による自主的取組があるが、それについても次回以降に取り上げることにしたい。

☆追伸☆~『気候大異変』のビデオを希望者にお見せします~

ところで、本欄で地球温暖化を「最も深刻な環境問題」であることを当然の前提としているが、学生諸君の中には、「少し暑くなるぐらいで、別にどうってことないんじゃないの…」と思っている諸君も少なくないかもしれない。

しかし、『気候大異変』と題されたテレビ番組(NHKスペシャル)を見てもらえれば、その深刻さが実感してもらえるにちがいない。というのも、地球温暖化とは単に「地球が暖かくなる」ということではなく、それによって引き起こされる地球規模での“気候変動”(Climate Change)に他ならないからである。

このテレビ番組を録画しておいたものを、実は教職課程の総合演習の受講者諸君にはすでに授業中に上映してある。50分の番組が全2回シリーズで放映されたものだったから、授業でも2回に分けて上映したが、その反響たるや、大変大きいものであった。そのおかげで、最初は反応の鈍かった受講者諸君も、いまや地球温暖化問題を真剣に考える大人に成長しつつあり、大変頼もしい限りである。

政治学概論の受講者の諸君には、残念ながら時間の制約上、このビデオを授業で上映できずにいる。これからも授業での上映は難しいだろう。

なので、政治学概論の受講者の中で、この『気候大異変』のビデオを見てみたいという人がいれば、授業の終わりにでも、ぜひ私に直接申し出ていただきたい。授業中に教室で上映することはできないが、山中研究室を個別に訪問してもらえれば、録画したDVDを、研究室のパソコンでよろこんで上映させていただく次第である。また、総合演習の受講者諸君でも、もう一度見てみたいとか、当日欠席してしまったので見られなかった、という学生諸君からの希望も大いに歓迎したい。

もちろん、これは授業の一環としてお見せするものであるから、学生諸君には無料で見てもらうのであり、したがって、著作権侵害には当たらないことを申し添えておく。

≪続く≫

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コメント

始めて投稿します。

私はエコ・エコノミーに携わる一人ですが、
環境税はガソリン、灯油だけではなく都市ガス、プロパンガスについても環境税をかけるべきだと思います。
太陽光発電や風力発電が新エネルギーとして注目を浴びておりますが、大気温を活用したヒートポンプ蓄熱も効率の良い新エネルギーです。

特に家庭での給湯器に使われているエコキュートは採算性はもとよりCO2削減では太陽光発電を凌いでおります。

家庭用太陽光発電の一軒当たり発電容量は平均で3kW 前後で年間CO2の削減は約500kgです。費用は約200万円前後です。償却は10年から20年かかります。

エコキュートは一軒当たりのCO2削減は年間800kg で、費用は80万円前後で、償却は7年から10年です。

この二つを組み合わせると、採算性が大きく向上するとともにCO2の削減に大きく貢献するようになっております。

是非、学生さんにヒートポンプ蓄熱の効用をお知らせくださいませ。

投稿: 佐藤 | 2006年5月25日 (木) 14時42分

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