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2006年5月30日 (火)

NHKスペシャル『気候大異変』(1)

本欄の前回記事の末尾で、今年の2月に放映されたNHKスペシャル『気候大異変』を録画したDVDビデオについて、申し出てもらえれば研究室でいつでもお見せする用意があることを述べておいた。

ところが、政治学概論(名張)の5月26日(金)の授業で提出された聴講券の裏面に、ある1人の学生からこんな声が寄せられたのである:

「『気候大異変』のビデオをぜひ見たいのですが、時間の都合がつかずに見られなくて残念です(泣)」

そこで、本欄での現在の連載、すなわち「環境税を考える」と題した記事の連載を続ける前に、この『気候大異変』で放映された内容の要点を、読者の皆さんに、とくに学生諸君を想定して、お伝えしていこうと思う。というのも、環境税の必要性の有無について真剣に考えていくためには、その大前提として、地球温暖化がいかに深刻な気候変動をもたらしうるかについて、一定の知識を持っておくことが必要不可欠だからである。

この番組の内容をすべてここで書くわけにはいかないし、申し出てもらえればいつでも研究室で上映する用意があることにも変わりはないが、そのために私の研究室を訪れる時間をとりにくい学生諸君のために、ここにその要点を書いていくことにしたい。

なお、このビデオは「総合演習」の授業ではすでに上映したものであるが、総合演習の学生諸君には、この記事を、そのときに見たビデオの内容の備忘録として利用してもらえるのではないかと思う。この映像を見たときの衝撃は諸君に今でも焼きついていることとは思うが、その内容がどういうものだったのか、冷静に頭に残しておくことも大切だからである。

○地球温暖化=気候変動
以前にも書いたが、地球温暖化とは、たんに「地球が少し暖かくなるだけ」といった軽い出来事を意味するのではない。それは、地球の平均気温が上昇することによってさまざまな気候変動が起こり、私たちの生活に実に深刻な影響を与えるかもしれないことを意味しているのである。

その深刻な危機的影響のひとつとして心配されているのが、ハリケーンや台風といった熱帯低気圧の巨大化である。しかも、その兆候はすでに現れ始めているのではないか、と考えられるのである。

○温暖化による熱帯低気圧巨大化の恐れ:ハリケーン・カトリーナが語るもの
昨年8月、超巨大ハリケーン・カトリーナがアメリカ南部ルイジアナ州に上陸したことは、学生諸君もご存知のことと思う。死者は1400人以上、被害総額は最大15兆円。米政府の発表によると、この被害総額は、同時多発テロの10倍という米国災害史上最悪の被害であった。

ところがその発生前、北大西洋の海面温度がいつもの年より1度高かったというのである。海面温度が上昇すると、それだけ水蒸気の量が増えるから、熱帯低気圧の勢力が増大することになる。

それでは、この海面温度の上昇は、地球温暖化によるものだったのだろうか?

アメリカ大気研究センターのケビン・トレンバース博士がNHKのインタビューに答えていたところによると、海面温度上昇の0.5度分はおそらく地球温暖化によるものだという。このことは「地球温暖化が進めば、今後暴風雨がより一層強度を増していくことを意味する」のである。

○これまでの気象常識の通用しない時代へ:発生するはずのない海域で熱帯低気圧が発生
このような気候変動は、たんにこれまでもハリケーンや台風といった熱帯低気圧がこれまでお馴染みの海域で発生する場合に、その規模が巨大化する恐れがあることのみを意味するのではない。もしかすると、このまま大気中のCO2の増大がとどまらず、地球温暖化が進んでいけば、これまでの気象常識の通用しない異常事態が発生するかもしれないことをも意味しているのである。

ブラジル南部サンタカタリナ州で2004年夏の終わり、これまで観測されたことのないハリケーン級の熱帯低気圧が発生した。およそ40,000棟が全壊あるいは半壊したという。このようなハリケーン級の低気圧はこれまで南米沖では観測されたことがなく、名前すらなかった。というのも、その発生地点は熱帯ではなかったからである。それは赤道から南下して3000kmの“温帯”地域だった…! この“温帯”であるはずの海域で発生した“熱帯”低気圧による死者・行方不明者は11人、負傷者は500人以上だったという。

それでは一体、このまま温暖化が進んでいけば、今後の地球でどのような気候変動が起こることになるのだろうか? その予測のために開発されたのが、“地球シミュレータ”である。

○日本の地球シミュレータ:その驚くべき計算・予測能力
この地球シミュレータが開発されたのは、実は日本の国家プロジェクトとしてである。横浜市の海洋研究開発機構に、この地球シミュレータが設置されている。そこにある体育館のような建物が一つのスーパーコンピュータである。そのなかに5120台の大型コンピュータがつなげられており、通常のパソコンだと14時間もかかる複雑な計算をたった1秒でこなすという、世界でもトップクラスの計算能力を持っている。この地球シミュレータによって、今後100年間の気候を予測できるのではないかと期待されているという。つまり、今後予想される大気中のCO2の濃度を入力すると、未来の地球の姿が分かるのである。

この地球シミュレータは、本当に今後100年の地球の気候を予測できるのだろうか?

実は、その予測能力を示した出来事が、上述の温帯であるはずの南米沖で発生した熱帯低気圧であった。というのも、その発生のおよそ1年前、仮想地球の計算が開始されたとき、その仮想地球のブラジル沖の温帯の海域で、発生するはずのない熱帯低気圧が現れていたからである。

最初、この地球シミュレータの計算結果を見たとき、研究者たちはこの計算結果に頭を悩ませていた。計算間違いではないかとさえ思ったというのである。ところが、その1年後に、その熱帯低気圧が現実に発生した。つまり、この地球シミュレータによって、観測史上初の出来事がその1年前にすでに予知されていた可能性があるのである。それは、この地球シミュレータの計算・予測能力の高さを証明する出来事であった。

それではこの地球シミュレータによって、今後100年間の地球ではどのような気候変動が起こると予測されているのだろうか? このことについては、次回に述べることにしよう。

≪続く≫

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