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2006年6月 2日 (金)

環境税を考える(4)

前回に引き続いてNHKスペシャル『気候大異変』の内容を紹介するつもりだったが、DVDをじっくり見直す時間を作れないでいた。そうこうしているうちに、環境税についての連載記事の続きを先に書くことができたので、今日はその記事を載せておくことにしたい。

○市場メカニズムの活用としての環境税:政府規制との違い

・環境税とは:簡単なおさらい
まず環境税とは何であったかについて、この連載記事(2)で予備的に確認しておいたことを、もう一度ここで振り返っておこう。

環境税とは、広い意味では「地球温暖化防止に限らず、およそ環境に負荷を与える財・サービス全般を課税の対象」とする税制一般のことも指すが、その最も狭い意味では、「CO2排出量の抑制を目標に、化石燃料が排出する炭素含有量に賦課する炭素税」のことを指している〔『環境税とは何か』iiページ〕。本欄では環境問題の中でも地球温暖化問題にその対象を限定しているので、ここで“環境税”という場合は、その最も狭い意味たる“炭素税”を指すものとする。この環境税=炭素税がかけられる身近な対象の例として、ガソリンや灯油(要するに石油からくる燃料)が挙げられる。

・環境税と政府規制の共通点:政府による強制的な政策
さて、学生諸君は、たとえばガソリンや灯油に税金がかけられ、その値段が上がることになる、ということを聞いて、どう思うだろうか? もしかすると、消費税率が現在の5%→10%あるいは15%へと上げられるのと、似たような思いを抱くかもしれない。つまり「いやだなぁ…」という思いである。

この税金を強制的にかける主体は、当然、政府である。したがって、環境税も、もしかすると諸君の受ける漠然としたイメージとしては、政府規制と同様に、結局のところ強制的なものであるという点において、すなわち政府による強制的な政策が国民に課せられることになるという点において、何ら変わりはないではないかと思われるかもしれない。

・環境税と政府規制の違い①:間接的な強制と直接的な強制
しかしながら、環境税と政府規制との間には、たしかにどちらも政府権力による強制的な手段であるという点においては同じであるが、同じ強制的な手段であるとはいえ、その強制の仕方において、見逃してはならない非常に重要な相違がある。

政府規制、すなわち政府による直接規制は、汚染物質の排出を直接的に制限あるいは禁止しようとするものである。

ところが、環境税=炭素税の方は、石油などの化石燃料の排出を直接制限あるいは禁止するものではない。国民は炭素税のかけられる化石燃料の使用について、直接的に制限・禁止されるわけではない。

ただ、他のエネルギー源と比べて、化石燃料の値段が相対的に上がることになるから、どのエネルギー源を使用するかについて、化石燃料と非化石燃料のどちらを選択すべきかについて、再考を迫られるだけなのである。

たしかに「再考を迫られる」というのも、一種の圧力として感じられるだろうから、強制に変わりないと思われるかもしれない。

しかしながら、直接規制とは異なり、炭素税は国民に化石燃料の使用を直接的に制限あるいは禁止するものではない。言い換えれば、国民の化石燃料を使用する自由を、直接的に制限するものではないのである。依然として、化石燃料を使う自由は許されている。

ただ、その自由な使用が許される背景的な大枠としての状況に、変化が加えられるだけである。すなわち、化石燃料と非化石燃料の相対的な価格比に変化が加えられているだけであって、その新たな価格比のもとで化石燃料と非化石燃料のどちらを購入して利用するかを選択する自由は、依然として許されているのである。

・環境税と政府規制の違い②:期待される効果の違い
それでは、この両者には、排出量を削減させるという効果をどの程度発揮することが期待されるのだろうか?

たしかに地域が限定された産業公害をもたらす汚染物質の場合、政府による直接規制は一定の効果を発揮するだろう。

しかし、その場合でも、直接規制は汚染者に対して限られた動機しか与えることができない。すなわち、汚染者に対して、規制された汚染量ギリギリまでにだけ削減しようという動機しか、往々にして与えることができないのである。
〔この点については『環境税とは何か』41ページを参照〕

他方、環境税=炭素税の場合、化石燃料を使用する費用を増大させることになるだけであって、その使用を直接的に制限・禁止するわけではない。

ところが、利益を上げるために費用を削減するというのは、市場に参加する各経済主体にとって最も強い動機と言えるから、炭素税がかけられた場合、化石燃料から非化石燃料へのシフトが、直接規制の場合と比べて、規制された排出量ギリギリのラインを越えて、さらに排出量が削減されていくことが大いに考えられるのである。

この点について、『環境税とは何か』には次のように書かれている:

市場メカニズムの活用を図る経済的手段は、費用最小化を目標とする企業に、持続的に汚染量削減に対するインセンティヴを招来する〔41ページ〕。

実際のところ、一般的にいって、人間の心理として、直接に強制されると、その強制によって要求される最低限度までしかしたくない、という気になるだろう。

ところが、一定のルールは大枠として強制的に課せられるとはいえ、その大枠の中であれば自由に行動してよいと言われれば、要求された以上に自発的に頑張ろうとすることもできるのである。

そして環境税=炭素税の場合、直接規制とは異なって、化石燃料の使用を直接的に制限・禁止するものではなく、非化石燃料との相対的な価格比を上昇させるだけで、化石燃料の使用自体は制限・禁止していない。むしろ、行動が許される大枠としてのみ、そういう価格比の状況が大まかに課せられるだけなのである。

その状況の下で利潤を上げるためにどうすればよいかの選択は自由に任されているから、それはまさに、“市場メカニズムの活用”に他ならないのである。というのも、市場メカニズムとは、各経済主体に大枠としてのルールを課すだけで、その大枠の中でありさえすれば、あとは自由に行動することを許すものだからである。

このように環境税=炭素税には、経済主体の自由に任せる余地が大きいがゆえに、かえって、政府による直接規制よりも効果的に化石燃料から非化石燃料へのシフトを促す効果が期待されるのである。

・経済団体の反対の論拠:価格弾力性の問題
しかしながら、経済団体が環境税に対して反対する場合、常にその論拠として挙げられるのは、専門的な用語を使うと、“価格弾力性”の問題である。もしも化石燃料の価格弾力性が低い場合、上記の効果は、環境税について、それほど期待できないかもしれないのである。

とはいうものの、いきなり“価格弾力性”うんぬん…と言われても、学生諸君にはよく分からないかもしれないので(経済学を勉強したことがなければ、それは無理もないことである)、この点については、次回に説明させていただくことにしたい。

≪続く≫

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