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2006年6月 7日 (水)

環境税を考える(5)

○経済団体の反対の論拠:価格弾力性の低さと日本経済へのマイナスの影響、自主的取組の強調

・化石燃料の価格弾力性の低さ

この連載(4)の末尾で予告的に述べておいたように、経済団体が環境税に対して反対する場合、常にその論拠として挙げられるのは、専門的な用語を使うと、“価格弾力性”の問題である。もしも化石燃料の価格弾力性が低い場合、CO2排出の抑制効果は、環境税について、それほど期待できないかもしれないのである。

この点について、石弘光氏は、次のように説明している:

時折、エネルギー消費に対して炭素税の抑制効果は小さく、よほど高税率にしないと有効でないとの批判もある。確かに石油で代表される化石燃料は必要度が高く、代替性が低いので、その価格が上昇しても短期的には消費はそれほど低下を示さない。つまり短期の価格弾力性は低いかもしれない。
〔『環境税とは何か』岩波新書、118ページ〕

一般的に言って、あるモノ・サービスの価格が下がるとそのモノ・サービスへの需要は増加し、逆に価格が上がるとその需要は減少する。つまり、値段が下がればそれを買いたがる人が増え、逆に値段が上がればそれを買いたがる人は減る、というわけである。

ところがこの≪価格下降→需要増加、価格上昇→需要減少≫という関係の働き方は、モノ・サービスによって異なってくる。たとえば「閉店・売り尽くしセール!」と銘打って非常に安価な値段で売られている商品でも、その商品がもうすっかり古びたものであれば、≪価格下降→需要増加≫という関係はそうカンタンには働かないかもしれない。その場合、よほど値段を下げなければ買いたがる人は出てこないかもしれないのである。

また例えば、逆に非常に人気のある(あるいは非常に必要度の高い)商品の場合、少々値段が上がっても、それを買いたがる人はそうカンタンには減らないかもしれない。つまり≪価格上昇→需要減少≫という関係がなかなか出てこないかもしれないのである。そのような場合は、値段をよほど上げなければ、買いたがる人は減らないだろう。

この≪価格下降→需要増加、価格上昇→需要減少≫という関係の働く度合い、すなわち≪価格の変化に応じた需要の変化の度合い≫のことを、経済学の専門用語で“価格弾力性”といい、この関係がなかなか働かないモノやサービスのことを「価格弾力性が低い」と表現する。

そして石油などの化石燃料の場合、人々の現在の生活があまりにもそれに依存しており、必要度の非常に高いものであるから、たとえ炭素税をかけてその価格を上昇させても、なかなか人々はそれを買い控えようとはしないだろう。そうすると、化石燃料の使用抑制効果を発揮させるためには、炭素税をよほど高率にしなければならないだろう。つまり化石燃料の価格をよほど高いものにしなければならない--というわけである。

・日本経済へのマイナス影響

しかしそうなると、経済団体によれば、次のようなことが懸念されることになる:

「日本だけで環境税等の経済的手法を導入しても、単にコストを上乗せしただけという結果になって、CO2の排出抑制には、期待した効果が上がらないのではないか」(経団連)

「CO2排出量に対する課税は、コスト、収益性、国際競争力に重大な影響を与えて、企業の経営基盤そのものを揺るがし、ひいては日本全体の経済の雇用問題ということにも影響を与えてくるのではないかと考える」(経団連)

「わが国は、既に省エネルギーが相当に進んでおり、インセンティヴで効果を期待する場合には、税・課徴金のレベルは相当高いものとならざるを得ず、産業や国民生活にとって甚大な影響がでる恐れがある」(経済同友会)
〔『環境税とは何か』194ページ〕

・自主的取組の強調

石氏によれば、この場合の経済団体の本音は、地球温暖化対策について、「これ以上対策を取る必要はないとは考えていない。さらにより努力していくべきである。しかし、それには税・課徴金という手法よりは、今までのような自主的・積極的な努力、ボランタリーが望ましい」(経団連)という点にあるのである〔『環境税とは何か』194ページ〕。

・自主的取組の限界:非協力的な企業の存在と家庭での自主的取組の不充分さ

しかしながら、石氏に言わせれば、この自主的取組には限界がある。たしかに地球温暖化対策に対して非常に意識の高い企業も多く存在している。しかしながら、他方で、意識が低く非協力的な企業も依然としてかなり存在している。また、産業部門のみならず、民生(家庭)および運輸部門からの排出量も相当なものであり、後者の部門の排出量はむしろ増加傾向にあるが、家計のCO2排出量削減にも自主的取組のみに期待するというのでは、石氏に言わせれば、政策論議としていかにも責任逃れなのである〔『環境税とは何か』55ページ〕。

○化石燃料型の経済からの脱却への躊躇
私も石氏の言うとおりだと思う。それにしても一体なぜ、経済団体はここまで炭素税に対して強硬に反対するのだろうか? それはおそらく、石油をはじめとした化石燃料型の経済システムがあまりにも広範かつ根深く定着してしまったがために、そこから脱却することに伴う経済的変化を恐れるメンタリティが経済界に強力に働いているからだと思われる。上記で引用した経済団体の見解にそのメンタリティが非常によく表現されていると言えるだろう。

この点に関して、われわれはどのように考えるべきなのであろうか? すでにかなりの回数を重ねてきた「環境税を考える」の連載であるが、次回をもって現段階での筆者の結論を述べ、ひとまずこの連載に一段落をつけたいと思っている。

≪続く≫

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