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2006年6月 6日 (火)

NHKスペシャル『気候大異変』(4・完)

NHKスペシャル『気候大異変』で伝えられた気候変動の内容としてこれまで本欄で書いてきたものを、ここでひとまずまとめておくと、それは次の通りである:

○熱帯低気圧の巨大化のおそれ、さらには温帯でも発生?
○気候の極端化:南部で降雨量増加による氾濫やがけ崩れ、北部では乾燥化。豪雨の頻度は北部でも増加。
○熱帯雨林の砂漠化、および世界各地での乾燥化による食糧不足
○デング熱などの熱帯地方特有の感染症が温帯地方にも拡大
○熱波による死亡の危険

今回は、『気候大異変』で伝えられた気候変動の内容の最後として、「海岸浸食による環境難民の大量発生の危険性」について、読者の皆さんにお伝えしたい。

○海岸浸食による環境難民の大量発生
温暖化による環境の激変によって、2億6千万人もの人々が住みかを追われる危険があるというシミュレーションがある。いわゆる“環境難民”の発生である。

こうした環境難民第1号として南太平洋に浮かぶ島ツバルの人々が挙げられることは総合演習の受講者諸君にはすでにお馴染みのことであるが、このような環境難民の発生が懸念されているのは、ツバル、キリバス、モルジブなど、南太平洋に浮かぶ島々だけではない。北極地方でも、まさに今、それが深刻な問題となっているのである。北極海の夏の氷は年々縮小している。地球シミュレータによると、2070年には消滅してしまうおそれがあるという。

NHKスペシャルで取り上げられていたのは、米国アラスカ州の北極海沿岸に浮かぶシシュマレフ島である。長さ5kmほどの細長い島で、人口はおよそ600人、その島民のほとんどは、イヌピアックと呼ばれる先住民族である。

このシシュマレフ島でここ数年、浸食によって海岸線が後退し、島民が次々と家を追われている。ここ10年の間で、海岸線がおよそ60mも後退したところもある。場所によっては、一晩で38mも浸食が進んだところもあったという…!

その原因の一つは、永久凍土の減少である。これまでは凍った海岸線が防波堤としての役割を果たし、海が荒れる10月にも、北極海沿岸の町を守ってきた。ところが温暖化による氷の融解で、海岸線が次々と浸食されているのである。北極海の氷は、この30年間で、10月の氷が北に500kmも後退しているという。

シシュマレフ島では、このまま浸食が進めば、あと十数年で住めなくなると考えられている。議論を重ねた結果、2009年までに移住することを決めたという。しかし、一体どこに移住すればよいというのか?--これが今、シシュマレフ島の人々にとって大問題となっている。すでに人が住んでいる町への移住が摩擦を引き起こすことが、大いに考えられるからである。

海岸の浸食や内陸部での永久凍土の融解など、温暖化の影響で被害を受けている村の数は、米国政府によると、アラスカ州全体で184箇所にのぼるという。

○環境問題=平和問題

IPCCのリポートでは、今世紀末までに海面が最大88cm上昇する可能性があると予測されている。その場合、海面上昇で水没する島や地域は世界全体に広がる。およそ130万平方キロメートル、日本のおよそ3.5倍の面積が水没してしまうのである。

そうして、米国で1,000万人、インドネシアで2,700万人、ベトナムでは3,300万人もの人々が住みかを追われることになる。こうして世界全体では2億6000万人もの人々が環境難民となってしまうおそれがあるのである。こうなってしまうと、環境難民の移動による摩擦が世界各地で起こることは容易に想像できるであろう。

すなわち、地球温暖化=気候変動による生活環境の悪化が、環境難民の大量発生を促し、その移動先で武力衝突にまで発展する可能性が大いにあるのである。

したがって、環境問題について考えることは、たんに環境問題にとどまることではない。それはまさに、世界平和を考えることでもあるのである。

○結 論
ここで改めて思い起こすべきは、地球シミュレータの計算の前提が何であったかである。

現在のCO2の濃度は370ppmであるが、100年後には、何も対策を採らずに化石燃料を使用し続ければ、960ppmにまで上がってしまう。京都議定書の目標を先進国のすべてが達成しても、860ppmとなる。さらに効率的にエネルギーを使用しながら経済成長を続ければ、CO2の濃度は700ppmとなる。

地球シミュレータの計算の前提は、このかなり控えめな700ppmというCO2濃度なのである…!

したがって、われわれは今まさに、文字通り、地球温暖化=気候変動問題の解決のために、全力を投入しなければならない時期の真っ只中にあると言わなければならない。京都議定書はたしかに大きな一歩であったが、それはほんの第一歩にすぎない。それだけでは、まだまだ全く不充分なのである。

ここまで本欄の文章に付き合ってくださった読者の皆さんは、もしかすると絶望的な気持ちに襲われているかもしれない。「もう手遅れなのではないか…」という思いである。

たしかに大変深刻な現状であることは事実である。それを知らないまま暢気に暮らしていくことは、現代のわれわれにはもう許されない。

しかしながら、このNHKスペシャルで伝えられたのは、地球シミュレータの“警告”であって、それが予測した未来像は、決して“宿命”ではない。つまり「もしこのまま何も対策を取らずに進んでいけば、100年後の地球はこうなりますよ」という警告なのである。

その100年後の地球の姿がどうなるかは、まさに今のわれわれにかかっている。だからこそ、手遅れにならないうちに、今まさに手を打つべきだという警告がされている。すでにもう手遅れになっているのであれば、警告する意味すらないだろう。まだかろうじて間に合うからこそ、警告がなされているのである。

これはまさに、私自身への自戒の念を大いにこめた文章でもある。というのも、従来の産業公害とは異なって、CO2の排出に起因する地球温暖化は、産業のみならず、家庭での生活者自身も、特に先進国に住む人々は、れっきとした加害者だからである。われわれ一人一人がライフスタイルを本気で改めなければ、この解決はおぼつかない。

また、これほど深刻な大問題であるならば、そうした一人一人の自主的な取組だけでも足りない。それのみならず、環境税といった政策も必要不可欠となる。そうでもしなければ、化石燃料からの脱却はとてもおぼつかないからである。

山中 優

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