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2006年7月 4日 (火)

政党制の衰退・変容の一例:滋賀知事選で環境派の女性知事誕生

伊勢キャンパス政治学概論の受講者諸君へ

名張の政治学概論の学生諸君に向けての時事的・専門的な話題は一時中断しているが、これまで伊勢の学生諸君へのそうした話題提供は、少なくとも授業で取り上げたばかりの内容に関する話題をタイムリーにお伝えするという点においては、もしかすると必ずしも十分とは言えなかったかもしれないので、今回は、ちょうど昨日の授業で取り上げた話題に関連するニュースについて、少しコメントを加えておくことにしたい。

昨日の新聞各紙朝刊は、滋賀県の知事選挙で環境派の女性知事が新しく誕生したことを報じている。JR東海道新幹線の新しい駅やダム建設など、大型公共事業の推進で支持を訴えた現職を破っての当選である。当選した嘉田由紀子氏(京都精華大教授・環境社会学)は、この新幹線の新駅の建設や琵琶湖流域河川ダムの建設といった大型公共事業の凍結を公約に掲げていたという。

このことは、政治学概論(伊勢)のテキスト『新版 現代政治学』(有斐閣、2003年)のpp. 139-141に書かれている「政党制の衰退あるいは変容」の内容を示す一例だと言えるだろう。このテキストの139ページには、このように書かれている:

〔1970年代以降の〕投票行動が〔保守・左翼の対立軸に基づく〕安定的な政党支持態度にもとづくものというより、時々の争点や、それに対する政党の政策の影響によって変わりやすい争点投票(issue vote)の性質を強く帯び始めたのである。

また、同テキスト140ページには、このような現象が生じた背景の一つとして、次の点が挙げられている:

雇用・所得といった物質的価値の重視、組織中心の活動などを特徴としてきた産業社会型の政党政治が、環境・自己決定・参加などを争点とする脱産業社会の「新しい政治」の感覚とかみ合わなくなった。

今回の滋賀知事選で敗れた現職候補が自民・民主・公明3党の推薦を受けていたことを思うと、上記のテキストからの引用文で述べられていることが、まさに当てはまると言えるだろう。というのも、昨日の産経新聞朝刊によると、県財政が危機に直面する中、新人候補の嘉田氏はハコものなどハード面の支出を見直して教育や福祉などソフト面の充実を主張したという点で、新駅の経済効果やダムの必要性を訴えた現職知事と全く対照的であり、そうすることで県議会与党の自民・民主の支持層の一部も取り込んだからである。

同紙によると、現職知事の推進してきた大型公共事業に対しては、自民や民主などの推薦政党からも「県民への説明責任を果たしていない」と批判が出ていたというから、現職知事はこれまでよほど強引な手法で公共事業を進めてきたのだろう。財政規律もかなり緩んでいたにちがいない。現に今朝の産経新聞「産経抄」によると、県債残高は約9,000億円で、これは県民一人当たり60万円以上もの借金を抱える勘定になるという。昨日の産経新聞夕刊によると、新駅の建設費約240億円を地元自治体が負担することになっていたそうだが、このような税金の使い方を、嘉田氏は「もったいない」と訴えていた。そのような税金の無駄遣いのひどさに対する反発の声が、環境派の新人女性候補を押し上げたのである。

もっとも、こうした今回の滋賀知事選のような事態が全国に今すぐ急速に広がっていくとは、必ずしも言えないかもしれない。というのも、今回の滋賀県の場合は、現職知事がおそらくはかなり強引に大型公共事業を推し進め、あまりにも税金を無駄遣いしてきたために、それに対する疑問の声が推薦政党の内部ですら挙がっていたという特殊な事情が働いているからである。また、新知事のもとでどのような県政が進められていくか、どこまで利益誘導政治が是正されるかについても、今後の推移に注目しておかねばなるまい。

とはいえ、今回の滋賀知事選の結果は、今後の地方選挙に大なり小なりインパクトを与えたことは間違いないだろう。既存政党は、今後も引き続き、脱産業社会の新しい政治への適応を余儀なくされていくに違いない。

山中 優

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