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2007年7月 4日 (水)

工場式畜産の問題点

7月3日の「総合演習(教職)」の授業で、地球温暖化問題を扱う一環として、肉食が地球温暖化に及ぼす悪影響について説明し、その際、本ブログ昨年12月29日の記事「肉食と穀物と森林破壊…そして飢餓」を参考資料として用いた。

そうしたところ、受講生の一人から率直なコメントをいただいた。その主旨は、「牛に草だけではなく大豆を食べさせてもよいと思う。人間だっていろいろなものを食べているのだから。牛のゲップによるメタンガス排出も、牛が生きているからこそである」というものだった。

それに対する応答を上記記事のコメント欄に書いておいたが、このコメントのおかげで、授業での説明不足に気づくことができたので、ここでそれを補っておきたい。それは、「工場式畜産の問題点」である。

クリストファー・フレイヴィン編著『ワールドウォッチ研究所 地球白書 2004-05』(家の光協会、2004年5月刊)の130~137頁に、「工場式畜産を見たことがありますか」という見出しの文章が書かれている。その中に、「過密な飼育と濃厚飼料から発生するリスク」と題して、次のような説明がある:

ウシは反芻動物であり、草や豆類、ワラや茎などを餌とする。しかし、畜舎で与えられるのはトウモロコシと大豆の混合資料である。この飼料のほうが、家畜の体重を短期間で増やせるからであり、また太っている家畜のほうが市場価格が高いからである。多くの消費者が工場式畜産の霜降り肉の食味や食感や見た目に期待するようになってきたが、穀物ばかりの濃厚飼料で育ったウシにはさまざまなリスクが隠れている。まずこの栄養価の高い飼料では、ウシは膨張感、酸血症、肝膿瘍、腸内のガスといった症状に悩まされる傾向がある。〔中略〕草を中心とした飼料がウシの胃の中の有毒な微生物を除去するのに対して、穀物飼料はその増殖を促すことも明らかになっている。これが、ウシなどの家畜の飼料に低用量の抗生物質を添加する一つの理由である。〔中略〕しかし、過密で不衛生な環境は動物をいっそう虚弱にさせ、サルモネラ菌や大腸菌、あるいは致命的な病気が、健康状態の良くない家畜の間で急速に蔓延するおそれがある。〔131~133頁。太字による強調は山中が加えた〕

つまり、大豆のような濃厚飼料はウシ自身にとって好ましいものでは全くなく、むしろ牛肉を食べたいという人間側の都合のみによるのであって、むしろ草を中心とした飼料のほうが牛自身のためなのである。

もっとも、牛肉を食べたいという人々の人口がそんなに多くなければ、過密な工場式畜産ではなく、自然に近い環境での飼育で充分だろう。その場合は濃厚飼料を与えることによって必要となる抗生物質や成長促進剤の投与も、されることがなかったはずである。

ところが、牛肉を欲する人口がこの地球上で急速に増えているために、畜産業では、あたかもモノを工場で大量生産するように、工業化された家畜生産が行なわれてきた。そのために上記のようなさまざまな問題点が生じてきたのである。

たしかに、牛のゲップ=メタンガスの排出は、牛が生きているからこそだろう。しかしながら、自然に近い飼育にとどまるならば、牛の頭数が不自然に急増させされることもなかったはずである。ところが、あまりにも牛肉需要が増えてきたために、牛の頭数も不自然に増やされることになり、メタンガスの排出も増加してきたのである。

そう考えると、あまりに過密で不自然な工場式畜産による牛肉の生産が、決して牛自身の命を尊ぶことにはならないし、地球温暖化の防止にもつながらないことが分かるだろう。

ちなみに、これも授業で言及しなかったが、家畜による地球温暖化への悪影響については、国連の食糧農業機関によって昨年12月に出された『家畜の長い影』(Livestock's Long Shadow)と題した報告書に詳しく書かれている(ただし英語)。それによると、世界の畜産部門がその生産の過程で排出する温室効果ガスの割合は、なんと運輸部門(13.5%)を上回る18%にも上るというのである…!

そうだとするならば、もうそろそろ我々は、「知らずに犯す罪」から脱却し、肉食が地球温暖化にもたらす悪影響を自覚し、少しずつでもいいから、肉食を減らしていくべきではなかろうか?--私にはそう思えてならないのである。

追記:この記事で、授業での説明を精緻化できたのは、受講生の一人が率直なコメントを寄せてくれたおかげだった。ここに感謝の意を表させていただく次第である。

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コメント

環境のためにも肉食を減らすべきだという事は分かりました。
でも現実には、それはかなり難しいと思います。

消費者でなく生産者ができる環境への配慮は何がありますか?
具体的に教えてください。

投稿: あやか | 2009年8月10日 (月) 14時09分

あやかさん、

どちらの方かは存じ上げませんが、コメントを誠にありがとうございました。

> 環境のためにも肉食を減らすべきだという事は分かりました。
でも現実には、それはかなり難しいと思います。

たしかに、いきなりキッパリとやめてしまうのは、なかなか難しいでしょうから、できるところから、少しずつ控えてみるところから始めてみてはいかがしょうか? それを続けていくうちに、だんだんできるようになっていくことと思います。

実は私自身、父親が精肉業を営んでいましたので、20代半ばまでは、よく肉を食べていました。ですが、そこから徐々に減らしていき、今では、無理して抑えなくても、ほとんど肉食をしなくなり、現在に至っています。


> 消費者でなく生産者ができる環境への配慮は何がありますか?
具体的に教えてください。

私自身は畜産業を営んでいないので、「具体的に」何か提案できる用意がないのですが、少なくとも、家畜自身をあたかも工業製品のように扱う「工場式畜産」ではない方法への転換(牧場での放牧)が、少なくとも、本ブログで述べた観点からは、必要だと思います。

投稿: 山中優 | 2009年8月11日 (火) 21時29分

『家畜の長い影』」について検索していたところ、こちらにたどり着きました。
興味深く、分かりやすい説明でよかったです。

最近、『ワールドウォッチ』誌の最新号で、畜産が排出する温室効果ガスの割合は全体の51%以上を占めると報告していると聞きました。

ご多忙だと思いますが、『家畜の長い影』さえもきいたことのない私達日本人のために、この51%について取上げて下さればうれしいです。

投稿: rumi | 2009年11月 3日 (火) 01時56分

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