私が現在抱えている仕事の一つは、昨年10月に開かれた、皇大・社会福祉学部10周年記念国際シンポジウムの記念論集の発刊に向けて、その企画運営責任者として、そのシンポジウムの概要を伝える原稿を書くことである。
これをさっさと片付けようとするなら、今すぐにでも書いてしまえそうなものなのだが、たとえ短い文章でも、その奥に大きな問題意識を持った上で書くべきだと常日頃思っているし、ただ単にその概要を過去の出来事として機械的に淡々と報告するのではなく、そこで議論されたことを踏まえて、今後その議論をさらに深めていくべき論点についても、たとえ簡潔なものであるとはいえ、シンポジウムの総括として書いておくべきだろうと思っているので、そのためにどうしても精読しておきたい本があったため、まだ書いていなかったのである。
その本というのは、次の書物である。
宮本太郎 2008 福祉政治:日本の生活保障とデモクラシー 有斐閣
一度は通読したのだが、行き帰りの電車のなかで途切れ途切れに読んだだけだったので、まだ消化不良の状態である。そこで、最近再び、一から読み直し始めたところである。
その「はじめに」に書かれた本書の問題意識に、私もまったく同感なので、その一節をここで引用しておこう。
福祉と雇用を支える政治には、アメリカのような市場志向の強い考え方であれ、スウェーデンのように再分配重視であれ、何らかの公共的な理念が不可欠である。これに対して本書は、日本の福祉政治が、人々の利害対立を何らかの理念や原則にもとづいて調整するのではなく、こうした対立と分断を利用した政権維持戦略に終始してきたことを明らかにするであろう。今日の膠着状況は、何よりも政治が生み出した事態なのであり、それゆえにその打開のためには、分断の政治からの脱却が不可欠なのである。(同書 v 頁)
これに私も完全に同意する。もちろん、宮本氏を昨年10月のシンポジウムにお招きしたわけではないので、このことをシンポ概要・総括の文章で前面に出せるわけではないが、その根底においては全く共通する問題意識がここに見事に表現されているので、本書の論旨を大いに意識しつつ、10周年記念シンポの概要・総括の原稿を綿密に書きたいと思っている。しかし、あまりモタモタするわけにもいかないので、急がなければならないことも確かである…。
【追記】
すでに報道されているように(特に毎日新聞のサイトで詳報されているが)、皇學館大学は今月16日に記者会見を開き、2年後の伊勢へのキャンパス統合とH22年度からの学部改組計画を明らかにした。ここ2~3年で全国的に社会福祉志望者が激減しており、その影響をもろに受けてしまったためである。
社会福祉の教育・研究自体は新しい学部においても中核の一つに据えられる予定だが、「社会福祉学部」という学部ではなくなることになっていることと、名張からは2年後には撤退することが決められたため、名張学舎の学生の間では大きな動揺が広がっている。そのような中で、昨年開かれた10周年シンポジウムの概要・総括の原稿を執筆しなければならないことは、私個人としても、内心、非常に複雑だった。だが、日本の福祉政治が深刻な課題を抱えていることには全く変わりはなく、その一端はそのシンポジウムでも明らかにされたので、皇學館大学での今後の社会福祉教育のためにも--これはH22年度以降も間違いなく継続される--日本の福祉政治が抱えている課題については、たとえ簡潔にではあっても、ぜひとも書いておかなければならないと思う次第である。
なお、本ブログは山中優個人のサイトに過ぎないので、今回の皇學館大学の学部改組計画に関する質問は一切受け付けられないことをご承知おき下さい(コメント欄に質問を寄せられても、この場では一切お答えできないことを御理解下さい)。
最近のコメント