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2009年4月 1日 (水)

経済危機で注目を集める古典思想(2)

今日から新年度が始まったが、それに先立って、先月中旬から末日にかけては、年度内に書き終えなければならなかった二つの仕事を抱えていた。一つは昨年10月開催の「皇學館大学社社会福祉学部10周年記念国際シンポジウムの概要と総括」の原稿であり、もう一つは萬田悦生著『文明社会の政治原理:F・A・ハイエクの政治思想』(慶應大学出版会、2008年)の書評である。先月中旬からはその二つの仕事で手一杯だったのだが、その二つの原稿を何とか年度内に書き終えて、無事に新年度の初日を迎えることができたことに安堵している。

さて、昨今の経済情勢のなかでハイエクを含めた古典思想に改めて注目が集まっていることに、本ブログ2月9日の記事で触れておいたが、ハイエク全集刊行元の春秋社編集部によると、この3月にもまた、ハイエクに関する記事が二つ出たという。一つは今年1月に出た『致命的な思い上がり』(ハイエク全集Ⅱ-1)への毎日新聞の書評記事であり、もう一つはハイエク研究者の一人・江頭進教授(小樽商科大学)への日経BP社によるインタビュー記事である(ただし後者を全部読むには無料の会員登録が必要)。

そうした中で、私も最近、ハイエクに関する論稿を依頼されたので執筆した。それが掲載されたのは、実は公明党機関誌『月刊公明』の2009年4月号である(本ブログ3月4日に③として挙げていたのは、実はこの原稿のことであった)。

誤解のないように急いで付け加えておくと、もちろん私は公明党支持者でもなければ、ましてや公明党員でもない。私自身は無党派層、より正確には「新無党派層」(政治的関心は高いものの、あるいはむしろそれゆえに、特定の固定された政党支持のない層)に属する者である。なので、その依頼があったときには大変驚いたのだが、その依頼の主旨は、党派的な議論ではなく、ハイエクの資本主義観と、そこから導出される政策的含意について、学術的に論じてほしい--ということだったので、執筆を引き受けた次第であった(ただし、その拙論のタイトルは編集部によって付けられたものである)。

『月刊公明』誌の著作権に触れるといけないので、ここで詳しくその内容を紹介することは控えねばならないが、そこで論じたことは、要するに、ハイエクが必ずしも資本主義を無条件に礼賛していたわけではなかった、ということである。

これは通俗的なハイエクのイメージとは違うかもしれないが、そうした通俗的なイメージがあるとすれば、やはりそれは誤解であると言わざるを得ないのである。そうした誤解を正し、今後の政治経済のあり方について考え直す上では、昨今の経済情勢の中でハイエクに改めて注目が集まっていることは、大変よいことだと思う。小生が公明党という現実の政党の機関誌編集部から原稿の執筆を依頼されたということは、わが国の現実政治の世界においても、ハイエクが改めて注目されつつあるということなのだろうと思う。

もっとも私自身は、ハイエクを最終的には思想的に克服すべき対象と見ている。そのことを私は、たとえば拙著『ハイエクの政治思想』(勁草書房、2007年)の188-189頁で次のように述べていたが、もちろんその考えは今も変わっていない。

たとえ理性の濫用をもたらした性急な野心は排斥されるべきであったとしても、社会主義がすでに崩壊した現代において、ハイエク的な自由原理が今後とも保持され続けるためには、ハイエク自身の所説よりも積極的な信念、すなわち、「たとえ幾多の失敗を重ねることになるとしても最終的には必ず報われることになる」という信念が、単なる方便以上のものとして説かれなければならないだろう。さもなければ、人々は困難な自由競争に勇気をもって挑み続け、創造力を発揮できるだけの気概を堅持しつづけることができないにちがいない。

とはいえ、それでは一体、ハイエクを超えていかなる自由原理を唱えるべきなのか--そのための思想的営為については、私などよりも、北海道大学の橋本努氏の方が、その力作たる『帝国の条件:自由を育む秩序の原理』(弘文堂、2007年)等において、ずっと先を行った議論を展開している。

ちなみに、この力作については、図書新聞第2830号(2007年7月21日)に小生の書評記事が掲載されており、本ブログ2007年7月23日の記事にも転載しているが、それはともかく、拙著に対して氏がそのウェブサイト上で2007年5月に掲載された書評記事で、小生に対して今後の議論の展開を求められているにもかかわらず、私にはまだそれができていないのを恥ずるのみであるが、少しでも早く氏に追いつけるよう、地道に研究を進めていきたいと思っている。

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