« 授業での質問に答えて(2):菅首相の消費増税発言をめぐって | トップページ | 民主党における「もう一つの政府・与党二元体制」 »

2010年8月13日 (金)

授業での質問に答えて(3):18歳投票権に関して

今回は、政治学入門の7月19日の授業で寄せられた質問に答えることにしよう。その質問は次のようなものであった。実際には「ですます調」だったが、ここでは「である調」で書くことにする。なお、〔 〕内は山中による補足である。

【質問】投票権〔が認められるための年齢条件〕を18歳以上の者に変えるメリットは何か? 逆に安易に投票する者が増えると思われるが…。

【回答要旨】18歳から投票参加できるようにしたのは、投票参加の経験を重ねることで、市民として成長していってくれることを期待してのことである。

詳しい回答に入る前に、まずおさらいをしておこう。教科書の佐々木毅 著『民主主義という不思議な仕組み』(ちくまプリマー新書、2007年)の「〈コラム6〉18歳投票権の時代へ」(pp. 166-168)で説明されていたように、2007年の国会で「日本国憲法の改正手続に関する法律」(いわゆる国民投票法)が成立したが、その国民投票法の第3条では「日本国民で年齢満18歳以上の者は、国民投票の投票権を有する」と定められた。これによって、将来的には、日本国憲法改正の是非を問う国民投票においてのみならず、国政選挙や地方選挙においても、選挙権年齢が18歳に引き下げられる可能性が大きくなってきた。要するに「18歳投票権の時代」へと向かいつつあるというわけである。

それに対して、未熟な者に投票参加させてもよいのか--というのが今回の質問の主旨である。もっともな懸念ではあるが、逆に「投票参加の経験を重ねていかなければ、成熟していかない」ということも言える--というのが、ここでのポイントだろう。

この点に関して、たとえば民主党は、その公式サイトに掲載している『民主党政策集INDEX2009』のなかで、政治改革の一環として「選挙権年齢の引き下げ」という項目を設けており、そこで「選挙権を18歳から付与する法律を国民投票法に合わせて施行します。わが国の民主主義をより成熟したものにするためには、国民が政治に参加する機会を拡大し、多様な意見を政治に反映できるようにすることが必要です」と述べている。
  ↓
http://www.dpj.or.jp/policy/manifesto/seisaku2009/05.html
 

他方、自民党の公式サイトでは、私が探してみたかぎりでは、この点に関する自民党としての公式見解についての明確な記述を見つけることは出来なかったが、関連するものとしては、「自民党中央政治大学院」のページがあった。この「中央政治大学院」というのは自民党による教育機関のようだが、その通信セミナー2003の修了生による論文が載せられており、その論文の一つが「若者と選挙」と題されたものだった。そこでも「もっと若い頃から選挙権を与え、若い政治家が増えていけば、政治に興味を持つようになり、若者も政治にも参加できるのだという気になるのではないか」と述べられている。
 ↓
http://www.jimin.jp/jimin/daigakuin/seminar2003/13.html

また、18歳に限らず、そもそも民主主義それ自体が、いわば「未熟な一般市民」が政治参加の経験を重ねることで成長していくことを期待するものである。この点に関して、19世紀フランスの自由主義思想家のトクヴィルは、その大変有名な『アメリカのデモクラシー』という著書で、次のように論じている。

疑いもなく、人民による公共の問題の処理はしばしばきわめて拙劣である。だが公共の問題に関わることで、人民の思考範囲は間違いなく拡がり、精神は確実に日常の経験の外に出る。〔中略〕民主政治は国民にもっとも有能な政府を提供するものではない。だがそれは、もっとも有能な政府がしばしばつくり出しえぬものをもたらす。社会全体に倦むことのない活動力、溢れるばかりの力とエネルギーを行き渡らせるのである。こうした活力は民主政治なしに決して存在せず、それこそが、少しでも環境に恵まれれば、驚くべき成果を産む可能性をもっている。この点にこそ民主主義の真の利点がある(松本礼二訳『アメリカのデモクラシー』第一巻(下)岩波文庫134-136頁)。

ちなみに、世界の半分以上の国は18歳を成人と定めている(成人年齢の引き下げ - Yahoo!ニュース)。そのことから考えても、選挙権年齢を日本においても18歳以上と定めることは、決して不合理なことではないと私は思う。

【追記】なお、これを機にトクヴィルの民主主義論の全体像について勉強してみたいと思われた読者には、次の文献をお勧めしておこう。小山勉(2006年)『トクヴィル-民主主義の三つの学校』ちくま学芸文庫 (8月13日 05:48記す)

|

« 授業での質問に答えて(2):菅首相の消費増税発言をめぐって | トップページ | 民主党における「もう一つの政府・与党二元体制」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 授業での質問に答えて(2):菅首相の消費増税発言をめぐって | トップページ | 民主党における「もう一つの政府・与党二元体制」 »