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2010年12月 7日 (火)

経産省「オルタナティヴ・ヴィジョン研究会」の成果が刊行

本ブログで昨年9月7日に取り上げた、経済産業省での「オルタナティヴ・ヴィジョン研究会」の成果が、このたび刊行される運びとなった。その編者・書名等は、次のとおりである:

中野剛志(編)『成長なき時代の「国家」を構想する:経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン』(ナカニシヤ出版、2010年12月18日初版第1刷発行)本体価格2600円+税、四六判408頁

本書はすでに、著者の一人である私の手元には届いている。全国の主要書店にも、まもなく並べられることになるだろう。以下では、本書の「序:成長という限界」に依拠しつつ、本書の成立経緯と基本姿勢について、できるだけ簡潔に紹介してみたい。

先ほども述べたように、本書は経産省で開かれていた研究会の成果であるが、経済産業省の公式見解を示すものではない。そうではなく、経産省とは独立した形で、研究会に集まったメンバーの有志の手によって書かれたものである。

そもそも本研究会は、経産省内で開かれたものとはいえ、研究会自体としては経産省から独立した形で組織されていた。政府の公式見解とは無関係に、今後の経済政策のあるべきヴィジョンを検討するために開かれていたのである。そのオルタナティヴ・ヴィジョン(以下、「ヴィジョン」と略記)の基本姿勢は「経済成長を第一目的とはしない」というものであった。

それではなぜ、本研究会は、経産省から独立した形で組織されたのか? それは、上述した「経済成長を第一目的としない」という本研究会で打ち出された方針が、それまでの政府の公式見解に沿うものでは決してなかったからである。むしろ、「ヴィジョン」の基本方針は、それまでの政府見解に対する根本的な問題提起としての性格を持つものであったがゆえに、政府見解として即座に打ち出すことは、政治的に難しいと思われた。したがって、本研究会は経産省から独立した形で組織されることとなったのである。

とはいえ、この研究会での議論は、経産省の職員が自主的に傍聴することが認められていたし、実際に傍聴されていた。正確に数えたわけではないが、私の記憶によると、当時の経済産業政策局長や産業構造課長も含めて、おそらくは毎回少なくとも20~30名前後の職員が、傍聴していたように思う。また、本研究会のレポート「経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン」は、今後の経済産業行政の参考の一つとしてもらうこととしたが、実際に経産省内で広く読まれ、活発な賛否両論を巻き起こしたのである。

そもそも経済産業省という官庁は、経済成長の実現を使命としてきた。したがって、経済成長を第一目的としない経済政策の新たなヴィジョンを提示することは、経産省の存在意義自体を脅かすものとなりかねないはずであった。

にもかかわらず、本研究会のレポートは、経済産業省において少なからぬ関心を巻き起こしたのである。もちろん異論も出されたが、逆に積極的な評価もなされた。要するに賛否両論が巻き起こったわけだが、異論が出されること自体、少なからぬ関心が抱かれたことの証左と言うべきだろう。そもそも関心が抱かれていなければ、その無関心から出てくるのは、異論ではなく、むしろ黙殺・無視という反応であったはずである。ところが、本レポートは、異論もさることながら、一部からは積極的な評価さえ生み出したのであった。

それにしても、「ヴィジョン」がそのような大きな関心を経産省内で引き起こした理由は、一体どこにあったのか? それについては、本書第Ⅲ部の座談会で語られている。この座談会は、研究会メンバーの代表と、経済産業省経済産業政策局の政策担当者との間で行われたものである。なお、経済産業政策局からの座談会出席者には、当時の経済産業政策局長であった松永和夫氏も含まれているが、ちなみに、氏は現在、経済産業事務次官である。

本書は全体で3部構成となっているが、まず第Ⅰ部は、上述の本研究会のレポート「経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン」である。それに対して第Ⅱ部は、その「ヴィジョン」で提示された論点について、研究会メンバーおよび経済産業省の有志が、それぞれの専門の立場から掘り下げた論稿が収められている(ちなみに私自身もその第Ⅱ部の筆者の一人である)。そして第Ⅲ部が、前述の座談会である。その部構成も含めた目次の詳細等については、ナカニシヤ出版のサイトを参照されたい。

いずれにせよ、本書が多くの読者によって広く読まれ、今後の日本における経済政策のあるべき姿について、考えを深めるきっかけとなってくれることを願うばかりである。

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