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2011年1月 6日 (木)

日経新聞経済教室・集中講義「市場を考える」を読む

1月4日から日本経済新聞朝刊の「経済教室」欄で、「市場を考える」と題した集中講義の連載が始まった。読んでみると、私にとって大変興味深い記事だった。

筆者は東京大学経済学研究科教授の松井彰彦氏で、ゲーム理論の観点から社会現象全体を解釈していく研究で数々の賞を授与されている経済学者である。最近の著書としては『向こう岸の市場(アゴラ)』(勁草書房)や『高校生からのゲーム理論』(ちくまプリマー新書)などがある。といっても、実を言うと、私はこれらの著書をまだ読んでいないのだが、この連載記事を読み始めて、私の視野に入れておかねばならない業績の一つだということを認識できたので、ありがたかった。

読んでみて非常に面白かったことのひとつは、昨日の第2回の連載記事で、松井氏が「さるかに合戦」の昔話を使いながら、17世紀の政治哲学者トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』における自然状態論を説明していることだった。西欧政治思想史を専門分野としている私がホッブズの議論を承知しているのはもちろんだが、それを「さるかに合戦」を引き合いに出して説明するというのは、恥ずかしながら、これまでの私には全く思いもよらないことだったので、非常に新鮮な驚きだった。

今日の第3回の連載記事では、その第2回の内容を受けつつ、ホッブズの言う自然状態と、互恵的な--つまり「お互いさま」の--人間関係が形成された共同体とを分かりやすく対比させていた。ここで念頭に置かれているのは、まず間違いなく、R・アクセルロッド『つきあい方の科学』(松田裕之訳、ミネルヴァ書房)で論じられている「しっぺ返し(tit for tat)戦略」の議論だろう。つまり、互いに相手を裏切ったり、逆に相手から裏切られたりという「しっぺ返し」を繰り返すなかで、互いに相手を裏切ることの愚を悟った末に、ついに協力関係が自生的に形成されていくことが期待される、という議論である。

この連載記事の目的を、松井氏は、「市場理論や人と人のつながりを分析の核とするゲーム理論を用いて、市場や、そこで活動する家族、企業、政府など参加者のつながりをみていきたい」と第1回(1月4日)の末尾で述べておられるから、これからもゲーム理論の知見を踏まえた興味深い連載が続いていくことと思う。

私はゲーム理論を本格的に勉強したことはまだないが、拙著『ハイエクの政治思想』(勁草書房)の第3章でハイエクの文化的進化論を批判的に検討した際、V. Vanberg の非常に有名なハイエク批判で展開されていた古典的なゲーム理論--「協力問題」や「囚人のジレンマ問題」--を踏まえたことがあった。そのこともあって、今回の経済教室での連載記事は、私にとって非常に興味深いものである。

明日からもしばらくこの連載は続いていくものと思われるので、今後も注目して読んでいきたいと思っている。

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2011年1月 4日 (火)

毎日新聞社説で『成長なき時代の「国家」を構想する』に好意的評価

皆さま、新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

さて、昨年12月に本欄で紹介してきた『成長なき時代の「国家」を構想する』(ナカニシヤ出版)が、今朝の毎日新聞社説で大変好意的に取り上げられていたので、そのリンクを以下に貼っておきたい。

毎日新聞社説「2011扉を開こう 福利増大めざす国家に」(2011年1月4日)

このように本書が注目されることは、著者の一人として大変喜ばしいことであると同時に、責任の大きさをヒシヒシと感じる。その責任を肝に銘じて、今年も少しずつではあるが、地道に研究を進めていこうと思っている。

【追記】この記事の表題を、一部改めました(旧題:毎日新聞社説で『成長なき時代の「国家」を構想する』に言及)2011年1月4日17:30記

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